MAIN

Category

FF14

Undertale *spoiler

Assassin's Creed

SOUL SACRIFICE

OFF

PKMN

ShovelKnight

Other

明けない夜の鎮魂歌

ジーベックとクラウス
不死クラウス妄想/ほんのりグロ気味/暗め

------------------------------------------------------------

外界から島へ来る者たちは皆一攫千金を夢見てその地に眠る財宝を探しに来るという。潮の流れが常に大荒れな海流を超えて、魔物の群れを退け、ようやくたどり着いたとしても船の中の生存者は数少ない。それでも多くの者がその島を目指し、誰一人として帰ることはなかった。その上、その島の付近で座礁した船は乱れた海流が原因で島へ流れ着く。長い月日を重ね、誰一人として戻ることの無かった島をいつしか船乗り達は「船の墓場」と呼ぶようになったという。
だが最近になって船乗りたちの間で恐れられていた島に奇妙な噂が流れだしていた。

――船の墓場に形を保った船がいた。と。
更に耳を疑う噂もあった。あの島から船が出港する姿を見た。という話だ。
しかも目撃者は複数いるのだという。

クラウスの耳にその話が届いた時には噂はより悪化していた。
――船の墓場に現れるという船には人の気配が無いが"船はずっとこちらを見ていた"らしい。
――「島に呼ばれている」と消えた船員はうなされていた。
――かれこれ何人もの人が"島に呼ばれて"消えていった。
――そして人が消えれば消えるほど、周辺海域の潮の流れが弱まった。
…といった調子だ。
その話に魔物の存在を感じた騎士は討伐のために島へ向かった。もちろん近隣の諸島に住む人々から止められたが、クラウスは構うことなく船を借りて上陸した。


「なにかきな臭い話だと思えば、やっぱりな…」

じゃら、と金属同士がぶつかる音がした。鮮やかな緑の衣類に鈍く輝く十字架が映える。銀の剣には多くの人影が写っていた。そのどれもがヨロヨロとクラウスに手を伸ばす。生者の光を求めて、またはその生命力を欲して奪おうと。聖職者には似合わない、巨大な剣で叩きつけるように人だったものを潰すと、クラウスを取り囲んでいた死者たちの輪が広がった。

「さっさと成仏したい奴はかかって来い。」

次々と向かってくる死者たちを切り伏せ、クラウスは内心舌を巻いていた。――それにしても、数が多い。噂を聞いておそらくは不死の魔物が関わると踏んで敵陣へ乗り込んだのはいいものの、予想を遥かに超える不死者の数に"浄化"が追いつかない。この量のことだ、間違いなく"発生源"がいるはずだ。そいつを倒せば周辺の島々から人が消えるこの状況は収束するだろう。ならば。

「お前達の親玉はどこだ?さっさと出て来いよ、臆病者!」

声を張り上げると、死者達の表情―――原型を留めてない者も多く、わかりにくいものもいる―――が、明らかに強張った。やはり、近くに居る。海水の匂いに混じって腐敗臭もキツくなる。どこだ。視線を巡らすと、複数の死者たちの視線がある一点へと向かった。
崩れた骨や肉塊の頂上に腰掛け、毒々しい色の骸骨頭がこちらには目もくれず片手に握った葡萄酒のボトルを開封する姿があった。

「よく暴れたもんだな」

蛸の足を彷彿とさせる長い舌でボトルのふちを軽く舐めて、大きく開いた口へとワインを流し込む。骨の隙間からビチャビチャとワインが零れて、服が汚れるのもお構いなしに一瓶を飲み干した。
なんなんだコイツは。クラウスは眩暈のようなものを感じつつも、その魔物を見上げた。

「俺はこの銘柄のワインが好物なんだが」口元を舐め上げ、続ける。「見ての通り、まったく満足できやしねえ」
それはボトルを投げ捨てた。落ちたボトルは骨と肉塊の山に埋もれて消えていった。

「で、暴れて気は晴れたか?"新入り"」
「……"新入り"?生憎だが俺はお前達の仲間に入りに来たわけじゃない。成仏させにきてやったのさ。」

息を整え、チャンスを探る。相手はこちらが一人だからと油断している。隙を突けば倒せるだろう。集中すると腐臭がやけに鼻に付く。骨頭の魔物はようやくクラウスに目を向けたと思えばわざとらしく大きな溜息をついた。口から紫色のもやが漏れる。骨の奥で鈍く光る目は明らかにクラウスを見下していた。

「戦闘狂は怖いなァ、自分の身は大切にしろよ?」「ほざけッ!」

ニヤニヤと笑う骸骨頭の意図が掴めず怪訝な顔をするも、強く剣を握り締めて切りかかった。すると骸骨頭もどこからともなくサーベルを取り出て応戦する。5合ほど剣を交え鍔迫り合いになると骸骨頭は口内の煙を吐きつけた。

「…ッ!ゲホッ、ゴホッ!」

鼻が曲がるような強烈な腐敗臭にむせ返る。近づいていた骸骨頭を乱暴に払いのけ、まだマシな空気を吸おうとするもまとわり付くような臭気に顔が歪む。苦しい。息が吸えない。

「やっと効いてきたか」
「…ッなに、を、」
「言っただろう、"新入り"ィ?」

腹部がじわりと熱くなる。目をやるとナイフが深々と突き刺さっていた。引き抜かれたナイフからは鮮やかな朱が滴り落ち、骸骨頭は長い舌でゆっくりと舐った。傷口に手を当て悪あがきのような止血をするも、体温とともに血は急激に流れていく。歪む視界は最後まで骸骨頭の姿が映っていた。


――冷え切った身体が微かに動いた。あのまま気を失っていたようだ。死者達はどこにもいない。体を動かそうにも、酷い倦怠感がのしかかる。腹部に手を当てると、パリパリと乾いた血が手に付いた。もう止まっていたようだ。重い身体を起こし、落としていた得物を探す。あそこだ。肉と骨の山の間に埋もれていた。一気に引き抜くと周りの骨が転がり落ちた。
やけに剣が重い気がする。ふと銀の剣に目をやって、クラウスは目を見開いた。

鏡面に映る、あまりにも変わり果てた自身の姿を認識するのに時間がかかった。薄栗色の髪は血のように赤く、金色の目もまた同じように赤く染まっていた。気を失う前に不死の主が言った言葉を思い出す。新入り。血の気の無い自分の肌を見て、クラウスは笑い出した。
「は、――はは、ははははは!」

そうか、俺もあいつ等と同じになったのか。
「ははははははははははははは」
乾いた笑い声が湿気た船内に響いた。

page top